COLUMN

転職しない選択も戦略になる。エンジニアの残留判断軸

公開日 著者 ENFI編集部 監修 米田葵

この記事の結論

転職しないことは現状維持ではありません。残るなら「この会社で何を得て、いつ見直すか」を決める。判断軸はHave・Be・環境の3点です。

転職サイトに登録したまま、スカウトだけ眺めて半年。今の職場が特別つらいわけでもない。それでも同僚の転職報告を見るたびに、自分だけ止まっている気がする。そういう状態でこの記事にたどり着いた方が多いと思います。

決めきれないのは、意志が弱いからではありません。判断の材料が、まだ手元で整理できていないことが多いんです。ENFIは、キャリアに迷う人を能力が足りない人だとは考えていません。経験はすでに持っていて、まだそれを自分の言葉でまとめていないだけだと考えています。ここでは、残るか動くかを自分で決めるための軸を整理します。

転職しないのは「決めていない」のとは違う

転職しないこと自体は問題ではありません。問題になるのは、いつまで残るのか、残って何を得るのかを決めないまま今の会社にいることです。

迷いが毎月ぶり返すのは、今の職場に留まる理由を明確にしていないからです。「今は動かない」と頭の中で思っているだけだと、次に不安になったときにまた同じ検討を最初からやり直します。一方で「この会社であと何の経験を積むか」「いつ見直すか」を書いてある人は、次の見直し日まで迷わなくて済む。違いは、決めた内容を書き残しているかどうかです。

米田に聞くと、残る判断で大事なのは今の職場で新しいことにチャレンジできるかどうか、そして数年後にキャリアのロードマップを再設計するとき、転職するかを改めて判断すればいい、ということでした。つまり、残ると決めるときは、いつもう一度考え直すかも一緒に決めておけばいいということです。

もうひとつ、今の職場に留まる理由が今の年収だけになっているときは注意が必要です。米田も大手SESから中小SIerへ転職したときは年収が下がるリスクがあったと話しています。目先の金額を手放したくない、という理由だけで残る判断をすると、長い目で見ていい選択にならないことがあります。

今の会社に残ったまま伸ばせるものは何か?

社内異動や担当領域の変更、学び直しや副業でも伸ばせるものはあります。転職は環境を変える手段の1つで、これらと同じように比べて選ぶものです。

ENFIが転職ありきで考えないのは、求人を紹介する会社ではなく、本人が自分で選べるようになることを目的にしているからです。転職を勧める記事が多いのは、その先に求人の紹介があるからです。転職以外の選択肢も比べてから選ぶほうが、後悔は少ないと考えています。

選択肢 変えられるもの 変えにくいもの 向いている状況
転職 事業内容、待遇の水準、評価制度 積み上げた社内の信用、慣れた進め方 得たい経験が今の会社に存在しない
社内異動・担当変更 扱う技術、関わる人、役割 会社の事業構造、給与テーブル 社内に目指す領域の部署や案件がある
今の役割のまま範囲を広げる 裁量、任される工程 肩書き、所属 信用があり、声を上げれば機会が回ってくる
学び直し・副業 手持ちのスキル、社外の接点 本業の評価、日々の業務内容 本業では触れない技術を試したい

どれが正解というより、今の自分が変えたいものがどの行にあるかを見てください。

残るか動くかの判断軸は、Have・Be・環境の3点

求人票を見る前に、今持っているもの(Have)、ありたい姿(Be)、その差が今の環境で埋まるか、の順で確かめます。ENFIが受講生と最初にやるBE-DO-HAVEの棚卸しも、この順番です。

Haveを先に書く

職務経験と使った技術、誇れる成果や乗り越えた課題、そして仕事以外の強み。この3つを直近1年分だけ書き出します。手が止まった項目は、今の環境で経験できていないことを示しています。

Beは5年後の像で書く

「あの人といえば◯◯」と言われたい専門性、働き方とライフスタイル、チームや後輩に対してどうありたいかを書きます。年収は結果として出てくるものなので、後回しで構いません。

差分が環境で埋まるかを見る

米田は「年収はスキルより環境で決まる」と話しています。残るかどうかを決めるときも、同じように環境を見ます。自分のBeに必要な経験が、今の会社のビジネスの中に存在するか。存在するなら、残ってその経験を積むほうが早い場合もあります。

ヒアリングで米田が挙げたのは、今の環境で個人の裁量がどれくらいあるかを知っておくべき、という視点でした。裁量が大きければ能動的に動いた分だけ評価のリターンも得やすい。逆に裁量が少ないなら、任されたポジションを全うしてから次のポジションを取りにいく姿勢が要ります。

相談で米田が最初に聞くのは、今の仕事のどこに不満があるか。転職の動機を掘り下げると、転職がベストな手段なのかが見えてくるからです。SESで本人の意思と営業側の意思に隔たりがあると感じたときは、動いたほうがいいサインだとも話していました。

残ると決めた人が、社内でやっていること

「この会社であと何の経験を積むか」を1つか2つに絞り、積めたかを確かめる日付を先に決めています。

  1. 得たい経験を1〜2個に絞って言葉にする。「設計から任される」「AIを使った検証を回す」など、行動で確認できる粒度にします
  2. 誰に何を言えば機会が回ってくるかを特定する。上長なのか、営業なのか、プロジェクトのリーダーなのか。伝える相手を間違えると、意思表示が届きません
  3. 半年後と1年後に見直す日をカレンダーに入れる。その日まではもう迷わないと決めます

ENFIでは基本プランの卒業後も年1回のキャリアコンパスセッションで設計を見直します。年に1回見直す日を決めておくやり方は、残ると決めた人にも役立ちます。

「今は動かない」が危うくなるサイン

危ういのは待遇そのものより、1年前と話せる仕事内容が変わっていない状態です。

米田はXで「怖いのは何も変わらない5年間」と書いています。年齢を重ねるほど、応募できる求人や任される役割の選択肢は減っていきます。同時に、環境を少しずつ変えることがスキルアップやキャリアアップにつながりやすい、というのが一般論だとも話しています。いきなり転職しなくても、担当や部署を変えることで環境は変えられます。

代表・米田の視点 当時20代だった私は、あまり深く考えていませんでした。かなり遠回りしたと思います。最初の4年半で1社目を経験しましたが、多く経験できたのは最初の1年くらいで、残りの3年半は同じような仕事の繰り返しでした。やる気も出ず、異動の気持ちを営業に伝えましたが、なかなか取り合ってもらえなかったです。

意思表示をしても環境が動かないなら、それも判断材料のひとつです。伝えていないのか、伝えたのに動かないのか。ここを区別してください。

AI時代でも、残る選択が不利になるわけではない

AIの変化に遅れるかどうかは、転職したかどうかより、今の現場で自分がAIを使って仕事をしているかどうかで決まります。

米田はAIをドーピングのようなものだと表現します。エンジニアが扱えると強くなれる。変化に対応できれば心配ない、という立場です。今の職場で業務にAIを使える場面があるなら、そこで試すのが一番早いと思います。あなたの現場で、来週から試せることはありますか。

今日からできる次の一歩

  1. BE-DO-HAVEのHaveの設問を1つだけ書いてください。直近1年で誇れる成果、乗り越えた課題。書けなければ、それが今の環境で何が得られていないかのヒントになります
  2. カレンダーに見直す日を1つ入れてください。半年後で構いません。その日まではもう迷わない、と決めておきます

よくある質問

転職しないと年収は上がりませんか?

社内の等級や役割の変化で上がることもあります。ただし上がり幅は会社のビジネスモデルに左右される面が大きいので、自社の昇給の仕組みと実例を確認したうえで判断するのが現実的です。

転職するか迷ったまま何年もたってしまいました。手遅れでしょうか?

手遅れと考える必要はありません。まず直近1年で担当した仕事と成果を書き出し、それが1年前と変わっているかを確認してください。変わっていないなら、変えられる範囲から手をつけます。

社内異動と転職、どちらを先に検討すべきですか?

得たい経験が社内に存在するなら異動のほうが負担は小さく、通らなかった場合も情報が残ります。社内に前例がない領域なら、転職も含めて並べて比べるほうが早いです。

転職しないと決めたら、転職サイトは退会したほうがいいですか?

退会する必要はありません。市場の求人内容を定期的に眺めるのは、自分のスキルの位置を知る材料になります。応募しないと決めておけば情報収集として使えます。

今の会社に不満はないのに迷ってしまうのはなぜですか?

不満の有無と、ありたい姿に近づけているかは別の問題だからです。5年後どうなっていたいかを書いてみると、迷いの中身が待遇なのか成長機会なのかが分かれます。