COLUMN
勉強する時間がないエンジニアへ。何をやめ、何から学ぶか
この記事の結論
時間がないときに必要なのは学習量の確保より学ぶ対象の絞り込み。ありたい姿から逆算して1つに決めれば、週数時間でも前に進みます。
ENFIに寄せられる悩みのうち、特に多いのが「目先の業務で精一杯」「どのスキルを身につければいいか分からない」という2つです。この2つはセットで語られます。順番としては、後者が先に片付かないと、前者はいつまでも解決しません。
エンジニアが勉強する時間がないのは、本当に時間の問題?
時間が足りないのは事実だとしても、着手できない原因の多くは、何を学ぶかが決まっていないことにあります。
学ぶ対象が決まっていないと、机に向かうたびに「今日は何をやるか」を選ぶところから始まります。この選択はそれなりに頭を使う作業で、障害対応で疲れ切った夜には一番できないことです。その結果、何も始めないまま夜が終わりがちです。
学ぶ対象が1つに決まっていれば、何をやるかを選ぶ手間がないので、30分の空き時間でもすぐに始められます。
米田が「勉強する時間がない」という相談を受けたとき、最初に聞くのは昼休み、通勤時間、寝る前の時間の使い方です。その時間が実際に使えるかどうかで、本当に時間がないのかが分かると考えています。使える時間が1日のどこかに残っているなら、問題は時間の総量より、その時間に何をするかが決まっていないことです。
「全部やらなきゃ」が学習を止める
クラウドもやりたい、設計も学びたい、資格も取りたい。全部やろうとすると、どれも1回分の時間が確保できず、結局どれも始まりません。原因は意志の弱さより、対象の多さにあります。
忙しさには2種類ある
繁忙期や特定のプロジェクトによる一時的な忙しさなら、数ヶ月後には収まります。一方で、常に障害対応が降ってきて定時後が埋まる状態が何年も続いているなら、それは業務の組み方の問題です。この切り分けは後半で扱います。
何から学ぶかは「ありたい姿」から逆算して決める
流行っている技術からではなく、5年後の自分がどう呼ばれていたいかから逆算して、学ぶ対象を1つに絞ります。
ENFIでは、受講生が最初にBE-DO-HAVE棚卸しというワークシートに取り組みます。Have(今持っているもの)、Be(理想の自分)、Do(今すべきこと)の順に書き出すものです。スキルや年収は手段と結果なので先に置かず、今ある素材とありたい姿を言語化して、その差分から行動を決めます。
ENFIでは、時間がないという悩みの多くは、学ぶ対象が決まっていないことから来ていると見ています。Beを先に決めると学ばなくていいものが決まり、限られた時間の使い道もそこで決まります。
Haveは業務の中にすでにある
経験者向けのHave1の設問は「職務経験・技術スキル(プロジェクト内容と役割、使用技術)」です。毎日やっていることなので価値を感じにくいのですが、言語化すると自分の持ち札がはっきりします。障害対応ばかりしていると思っていても、その中で運用設計の知見やログの読み方が身についています。書き出しておけば、次に何を学ぶかを決める材料になります。
業務と学びたい領域がズレているとき
今の業務がJavaの保守で、学びたいのはAIやクラウド。このズレで止まる人は多いです。
米田は、まず将来やりたい領域について、なぜそれを選ぶのかを聞きたいと話します。理由がはっきりすれば、その領域と今の業務が線でつながるように設計していける、という考え方です。たとえば運用保守の経験があるなら、クラウドの運用管理から入ったほうが、今の持ち札が使えます。まったく新しい領域から始めるより、今の経験を使えるぶん早く進めます。
Be1の設問は「あの人といえば○○と言われたい像」です。ここが1行書けると、学ぶ対象はだいたい絞れます。
時間がない前提で学習を設計する
学習時間を増やそうとするより、詰まる時間と迷う時間を減らすほうが現実的です。ENFIのQUESTには、学習を止めないための決まりごとがあります。
- エラーで15分悩んだら、それ以上は悩まない。AIに聞く、検索する、人に聞く、の順で動かす
- コードは暗記しない。書き方はAIに聞いて、何を作りたいかに頭を使う
- 隙間時間を使い分ける。設計や調べ物はスマホでAIと相談し、実装はPCでまとめてやる
米田自身、派遣エンジニアとして働いていた頃は、通勤時間が勉強時間であり運動時間でもありました。片道20分、安全な開けた道を歩きながらスマホで学習していました。机に向かうのはハードルが高かったと米田は振り返ります。机に向かえる日だけを学習日とすると、週にほとんど日が残りません。
AIの使い方について、米田はAIを教師にしてくださいと話します。ハルシネーション(AIがもっともらしい誤情報を出すこと)を理由に避けていると、いつまでも使えるようになりません。誤りを見極める力は、失敗しながら身につくものだという立場です。ただし、最終的に承認する部分は人が持つべきだと考えています。
学習量の目安として、QUESTでは前半は週8〜12時間、後半で週15〜20時間を置いています。仕事と両立する人が多い設計です。学習が止まる一番の原因は挫折なので、最初から量を増やさず、続けられる量から始めます。
業務時間を学習に変換できているか
1日8時間の業務は、記録と振り返りを足すだけで学習時間に変えられます。
その日に触った技術について、何をしたかだけでなく、なぜその判断をしたかまで書き残します。設定値をこの値にした理由、別案を却下した理由、再発防止として何を入れたか。5分で書ける量で十分です。
QUESTでは、積み上げたGitHubがポートフォリオになると考えています。語れる観点は3つあって、作品(何を作ったか)、プロセス(Issueの分け方、PRとレビューで直した点)、運用(止め方、課金、秘密情報の扱い)です。この3つは業務の記録にもそのまま使えます。担当した機能、進め方の工夫、運用で起きたことと対処。この形で残っていれば、社内評価の面談でも転職活動でも、そのまま話せる素材になります。
1年分の記録が残っていれば、次のキャリアを考えるときに見返せる材料になります。
それでも時間が取れないなら、環境を見直す
学ぶ内容を決め、隙間時間も使ったうえで時間が取れないなら、業務の構造を疑う段階です。ただし、その前に工夫の余地を使い切ったかは確認してください。
代表・米田の視点 そもそも日本人は他責思考になりがちだと思うんです。その環境を選んでいるのは自分なのだから、環境を変えればいいだけの話で、正直、甘えるなと思うこともあります。とはいえ、ほとんどの場合はまだ工夫の余地があるはずです。
米田は年収はスキルより環境で決まると考えていて、環境を少しずつ変えることがスキルアップにつながりやすい、という見方を持っています。ここでいう環境には、会社だけでなく担当業務も入ります。
選べる手は、転職を含めて次の4つです。
| 選択肢 | 向いている状況 | 最初にやること | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 今の会社に残る | 忙しさが一時的、数ヶ月で収まる見込みがある | 繁忙の終わる時期を確認し、その後の学習計画を立てる | 「落ち着いたら」が何年も続いていないか確認する |
| 担当業務を変える | 会社や人には不満がないが、業務内容が固定されている | 上長との面談で、やりたい領域とその理由を伝える | 希望が通るまで時間がかかる。並行して記録を貯める |
| 学び直しに投資する | 業務の外で経験を積まないと次に進めない | 学ぶ対象を1つに決め、週あたりの時間を先に確保する | 対象を決めずに始めると途中で散る |
| 転職を検討する | 構造的に時間が取れず、担当変更も通らない | 職務経歴書に書ける素材を棚卸しする | 揉める辞め方は避ける。目先の収支は一時的に動くことがある |
どれを選んでも、先にBeが決まっていないと判断の基準が持てません。順番としては、環境の話より棚卸しが先です。
今日からできる次の一歩
- BE-DO-HAVEのBe1、「あの人といえば○○と言われたい像」を1行だけ書く。きれいにまとめなくて構いません
- 今週、業務で一番時間を使った技術を1つ選び、15分だけ調べて、なぜその判断をしたかを記録に残す
この2つなら、今日の夜でも終わります。学ぶ対象が1つ決まれば、来週からの30分の使い道は迷わなくなります。
よくある質問
週に何時間くらい勉強すれば十分ですか?
一律の正解はありません。ENFIのQUESTでは前半が週8〜12時間、後半で週15〜20時間を目安にしていて、仕事と両立する人が多いです。まずは続く量から始めて、学ぶ対象を絞るほうが先です。
業務で使う技術と、学びたい技術が違います。どちらを優先すべきですか?
ありたい姿に近いほうを優先し、業務側は記録と振り返りで学習に変換するのが現実的です。両方を同じ熱量でやろうとすると、どちらも中途半端になりやすいです。
資格の勉強と個人開発、どちらが時間対効果が高いですか?
目的によって変わります。体系的な知識の抜けを埋めたいなら資格、作れることを示したいなら個人開発が向きます。ありたい姿を先に決めると、どちらが必要かが決まります。
AIに頼って書いたコードでも、学習になりますか?
なります。ENFIでは暗記より「何を作りたいか」に頭を使うことを重視していて、書き方はAIに聞く前提で進めています。ただし、動いた理由を自分で説明できる状態までは確認してください。
疲れて何もできない日が続きます。どうすればいいですか?
量を落として、続けることを優先してください。15分でも記録を残せば、次に再開するときの迷いが減ります。それが数ヶ月続くなら、業務の負荷そのものを見直したほうがいいです。