COLUMN

AIに頼る若手は成長できない?1〜3年目の力のつけ方

公開日 著者 ENFI編集部 監修 米田葵

この記事の結論

AIを使うと成長しないのではなく、答えを受け取るだけで終わると力が残りません。判断の理由を自分の言葉にする習慣が、若手の経験を資産に変えます。

AIを使うと成長できないのか

AIを使うこと自体は問題ではありません。力がつかないのは、AIが出した答えをそのまま採用し、なぜその答えなのかを確かめないまま次の作業に進んだときです。

1〜3年目で「仕事は回っているのに力がついている気がしない」と感じていても、能力が足りないとは限りません。AIに聞いて動くコードが手に入り、レビューも大きな指摘なく通ると、自分が何に迷って何を選んだかを覚えないまま作業が終わります。

米田はAIをドーピングのようなものだと表現しています。エンジニアが扱えると強くなれる道具で、使うこと自体に問題はありません。問題は、道具の出力を受け取るだけで一日が終わる日が続くことです。

ひとつ確認してみてください。今週書いたコードのうち、なぜその書き方にしたかを人に説明できるものは、いくつありますか。

「動いた」で終わると、次の判断材料が残らない

テストが通った時点で作業を終えると、同じ課題に次に当たったとき、また最初から聞き直すことになります。残っているのは成果物だけで、判断の履歴がないからです。

逆に、採用しなかった案をひとつでも覚えていれば、次は比較から始められます。コードを暗記する必要はありません。覚えておきたいのは、どういう条件のときにどちらを選んだか、という部分です。

力がついている若手と、そうでない若手の違い

差が出るのは、AIの提案を採用するかどうかを自分で判断し、その理由を説明できるかどうかです。

米田は、AIを使いこなしている若手にはひとつの癖がつくと話します。AIで情報収集をするぶん、出てきた内容が合っているか間違っているかを判断する癖です。反対に、任された作業だけをこなしている若手は、融通が利かず、柔軟な対応ができなくなりがちです。米田は、こうした差が若手のあいだで出てくると感じています。

では何を見て判断するのか。米田は、まずAIがすすめる提案を第一候補に置きます。そのうえで、クライアントが求めている仕様に合っているか、環境の制約で実現できない部分がないかを確かめてから採用します。

場面 受け取るだけで終わる進め方 判断を挟む進め方
調査 最初に出てきた方法をそのまま採用する 別の方法も出させて、今の環境で使えるほうを選ぶ
実装 動いたコードをそのまま提出する なぜその構成なのかをAIに説明させ、仕様と突き合わせる
レビュー対応 指摘された箇所だけ直す 同じ理由で直すべき箇所が他にないか探す
エラー対応 提示された修正を当てて先に進む 発生条件を一度整理してから修正を当てる

表の右側の作業は、どれも数分で済みます。

1〜3年目のうちに積んでおきたい経験

技術そのものより、要件を自分で分解して進める経験と、人に説明して合意を取る経験を優先してください。

米田は、もし自分が1〜3年目でAIが使える環境にいたら、AIを学習に使うと話します。この実装はなぜこうなっているのかと設計理由を聞いたり、AIが出してきたコードを解析させたりする。そうすれば、何もできずに手が止まる状態にはならないと米田は考えています。

ENFIのスキル学習プログラムQUESTには「パーティの掟」という決めごとがあります。ひとつは暗記の禁止で、コードを覚えるよりも何を作りたいかに頭を使い、書き方はAIに聞くというもの。もうひとつは15分ルールで、エラーで15分悩んだら悩みすぎなので、AIに聞く、検索する、メンターに聞くの順に進みます。ENFIでは、ひとりで悩む時間を延ばすより、その時間を何を作るかを考えることに使うほうが早く力がつくと考えています。

語れる経験という意味では、開発の進め方そのものも材料になります。Issueを切り、プルリクエストを出し、レビューで指摘を受けて直す。さらに、作ったものを公開して、止め方や料金の管理まで自分で扱う。QUESTではここまでを一連の流れとして扱いますが、業務でも意識すれば近い経験は取りに行けます。面接でも日々の1on1でも、話せる中身が増えます。

説明できる単位で仕事を区切る

タスクを受け取ったら、着手前に一度だけ自分の言葉で書き直してみてください。何を作るのか、誰が困っているのか、どこまでできたら完了か。この3点を書けないまま進めると、終わったあとに残るものが少なくなります。

書いてみて埋まらない項目があれば、そこが先輩に聞くべき場所です。実装のやり方を聞くより、判断の前提を聞くほうが、1〜3年目には実りが大きいと考えています。

スキルの前に、現在地とありたい姿を書き出す

何を学べばいいか分からないときは、学習対象を決める前に、今持っている経験と5年後になりたい姿を書き出します。差を見てから行動を決める順番です。

ENFIでは受講生が最初にBE-DO-HAVE棚卸しというワークシートに取り組みます。順番はHave、Be、Doです。まずHaveとして、関わったプロジェクトの内容と自分の役割、使った技術を書き出す。次にBeとして、「あの人といえば○○」と言われたい専門性を書く。最後にDoとして、3ヶ月以内にやる行動を決めます。

スキル名や年収から入らないのは、それらが手段と結果だからです。先に素材とありたい姿を言葉にしておかないと、学ぶ対象を選ぶ基準ができません。

AI時代には、このHaveの棚卸しがより大事になります。作業が速く終わるほど、何を経験したのかが記録に残らないからです。意識して書き出さないと、1年経ったときに手元に何もない感覚になります。

何を学べばいいか分からないのは、能力や才能が足りないからとは限りません。ENFIでは、今持っている経験をまだ書き出して整理していないことが原因だと考えています。

代表・米田の視点 これまでは新人でも担当できた、コードを書く、テストを実施するといった単純作業がAIに置き換わっていきます。つまり、下積みを経験する土壌そのものが減ってきているんです。だからこれからは、V字プロセスでいう上流工程から入って、下流工程はAIに任せ、自分がプロジェクトを操れるようになることが求められると思っています。キャリアの考え方がこれまでより難しくなっているのは、ここが理由です。

今の環境で続けるか、変えるかの考え方

転職は選択肢のひとつです。先に、今の環境で取りに行ける経験と、どうしても取りに行けない経験を分けて書き出してください。

「AIで雑務をこなすだけで成長できない」と相談を受けたとき、米田がまず聞くのは「その雑務をどこまで自動化できているか」です。本当にやることがなくなっているなら環境を変えたほうがいい。その見極めのために聞くのだと話します。雑務を自動化しきって手が空いたという状態は、それ自体がひとつの実績でもあります。

米田は年収はスキルより環境で決まると考えていて、環境を少しずつ変えることがスキルアップにつながりやすい、というのが一般論だとも話しています。ただ、経験が浅い時期は少し事情が違います。未経験から入って最初にヘルプデスクを1年しっかりこなすのも立派なキャリアで、大事なのはそこからステップアップできるかどうか、というのが米田の見方です。

1〜3年目であれば、まずは今の現場で任される範囲を広げる方向も有力です。選択肢は転職だけではなく、残留して役割を変える、社内で異動する、学び直して別の領域に備える、という並べ方になります。どれが正解かは、Beに書いた姿によって変わります。

今日からできる次の一歩

  1. 今日AIに聞いて採用した提案を1つ選び、なぜこれを採用したか、採用しなかった案は何だったかを2〜3行メモする
  2. BE-DO-HAVEのBe1、「あの人といえば○○」と言われたい姿に、今の時点の答えを1行書く

どちらも5分かかりません。1行の答えが数ヶ月後に変わっていても問題はなく、変わったこと自体が経験の記録になります。

よくある質問

AIを使わずに自分で書いたほうが力はつきますか?

毎回自力で書く必要はありません。時間をかける場面と、AIに任せて先に進む場面を分けるほうが現実的です。差がつくのは、採用した理由を自分で説明できるかどうかのほうです。

AIで仕事が回ってしまい、先輩に質問する機会が減りました。問題ですか?

質問が減ること自体より、設計意図やレビュー観点を知る機会が減るほうが影響します。実装のやり方ではなく、なぜその判断にしたのかを聞く形で会話を残すとよいです。

1〜3年目で資格は取ったほうがいいですか?

目指す方向が決まっているなら、学習範囲を区切る手段として役に立ちます。方向がまだ決まっていない段階では、現在地とありたい姿を書き出すほうが先です。

成長できていない気がして転職を考えています。早すぎますか?

年数だけで早い遅いは決まりません。今の環境で取りに行ける経験と、どうしても取りに行けない経験を分けたうえで、転職・残留・異動・学び直しを並べて比べてください。

個人開発はやったほうがいいですか?

要件を自分で決めて最後まで動かす経験が積めるので、業務で任される範囲が狭い人には有効です。作って終わりにせず、公開から停止までを自分で扱うと語れる材料が増えます。